ヨーロッパでの研究・研修滞在記番外編
(2025年9月11日~26日)
2025年9月に約2週間ヨーロッパで研究・研修を行ってきました。様々な国を移動しながらのスケジュールでしたので、移動日や研修前後の数時間を使って観光もしています。皆様が行かれる際の参考になるかもしれませんので報告させていただきます。
細かな描写や年代など素人が書いているので間違っているかもしれませんがご容赦ください。

今回はスペイン・ルーゴでの研究が決まっていましたがスペインでの国内移動に時間がかかることに加え、万が一飛行機移動などに問題があっても対応できるようにするため、月曜からの研究を万全の体調で行えるようにするためにも一日余裕もってスペイン入りしました。マドリードで一日フリーの時間がありましたので、トレドに行くことにしました。トレドは元々スペインの首都であり、宗教的な理由から16世紀にマドリードに遷都された街です。そのおかげでその当時の街並みが残っており今では素晴らしい観光地になっています。


私は絵画や彫刻が好きで、海外研修に行った際には時間があれば美術館に行ってのんびり過ごしています。トレドに行った理由はエルグレコが書いた「オルガス伯爵の埋葬」を観るためです。皆さま世界三大絵画を聞いたことはありますか? その一つがこのオルガス伯爵の埋葬なんです。
世界三大美術館はフランス・ルーブル、スペイン・プラド、ロシア・エルミタージュでエルミタージュに行くことは一生叶わないでしょうが、世界三大絵画は今回達成できそうです。マドリードから車で1時間半。事前に車を手配して朝5時半に空港に到着してからトレドに直行です。イスラム教・ユダヤ教・キリスト教が混在した街並みが印象的です。


午後はマドリードに戻り二つの美術館へ。2年前にバルセロナで学会があったときにどうしても行きたくて日帰り弾丸観光に行った美術館に短期間で戻って来れるとはその当時思ってもいませんでした。
まずはソフィア王妃美術センターです。ここで見れるのはピカソの「ゲルニカ」。スペインは第二次世界大戦には参戦していない(はず)ですが、この当時内乱がありました。フランコ側の反乱軍がナチスドイツの力を借りて、世界で初めて市民に対する無差別爆撃を行った悲劇を描いた名画です。1937年に完成しました。


スペインは長くそのフランコ政権が続いたので、このゲルニカ様々な国を渡り歩いてスペインに戻ったのは1981年。
絵画のサイズが非常に大きく、移動により劣化が激しいためにこの場所からもう動かされることは決してありません。
そして今日本では万博が大変盛り上がっていますが、ゲルニカはパリ万博のスペイン館で飾られていた絵画なんです!


ここにはそれ以外にも様々な名画があって一日楽しめるのですが、2時間ほどで泣く泣く離れもう一つの美術館へ。
プラド美術館です。
世界三大美術館の一つでマドリード中心街にあり多くの素晴らしい絵画を見ることができます。ここの目玉は世界三大絵画であるベラスケスの「ラスメニーナス」、そして日本ではあまり有名ではないかもしれませんが圧倒的な人だかりが前回に引き続き出来ているのがボスの「快楽の園」!快楽の園は500年以上前に書かれたとはとても思えない細かさや色遣い。現代の画家がタイムスリップしたかのような絵画です。ゴヤやルーベンスなど一日いても楽しめます。
とは言え私は美術は好きですが細かなことは分かりません。その当時の時代背景や何が素晴らしいと評価されているかなどを理解するために今回は助っ人を。
世界の有名な美術館には日本語のオーディオガイドがあるのでそれを借りることをお勧めするのですが、せっかくなのでマドリードで活動されている現代美術家の根岸様に撮れども含めガイドをしてもらいました。
事前に見たい絵や好みなども伝え効率よく詳しい解説とともに絵画鑑賞をする。最高の一日でした。今はネットで調べることはいくらでもできますが、正しい情報かどうかは分からず、重要な情報かどうかも分かりません。専門家が言っているから正しいわけでもないのですが、歯科治療も一緒でやっぱり患者様の状況に合わせて、個別に考えた説明をすることが重要だということも再認識できました。今まで以上に心がけるようにします。



現地での圧倒的一番人気です。ボスのいくつもの絵画が飾られた部屋があります。

この日はグルメも堪能しました。でも日本は「食」に関しては絶対に世界No1です。こんなに安く美味しいものが簡単に食べられるのは世界で日本しかありません。海外に行くたびに有名なレストランにも行きましたが正直感動したことはありません。食の好みが違うという観点も当然ありますが、言語の壁とコネクションがあれば日本の料理人は世界で本当に評価されると心から思います。
マドリードやニューヨーク、ロンドンのミシュラン3つ星レストランで、ワサビや日本酒、味噌や醤油を「これが世界の最先端だ!」と自慢しながらサーブされる経験をして今は海外の3つ星や2つ星のレストランには興味があまりなくなっています。
とはいえ、長期旅行のスタートでもあり私のイメージを覆してくれるお店があるかもしれません。マドリードの2つ星レストランに行ってきました。


このお店で多用されていたのが「塩こうじ」です。費用と味とのバランスで言うと日本で食べたほうがよほどいいのですが、調理の見せ方や説明の仕方、コースの流れ(25皿が4時間かけて提供されました)など、我々日本人の評価基準と欧米人の評価基準にそもそも大きな差があり、世界で戦うにはそういった差をちゃんと理解して「独りよがりではない」努力をしないといけないということも再認識出来ました。
そしてマドリードには有名なサンミゲル市場があって大変にぎわっていますが、これは完全な観光客向けの市場。札幌の二条市場や、小樽の三角市場のようなところです。
とっても美味しそうですが、ものすごく高いです!


海外に行くたびに感じるのが「日本の素晴らしさ」。
安くて安全できれいで、どこでも気軽に歩き回れる。
日本のパスポートがあれば、どの国に行っても入国審査も一瞬で通ることが出来る。(一度だけボストンに行ったときに別室に連れられて荷物を全部開けて調べられて、トイレにもついてこられた経験はありますが。2時間調べられてようやく解放されました)
こんな国は日本しかありません。
それは第二次世界大戦の敗戦後、先人たちが死ぬ思いで努力をして偏見や差別にも打ち勝って勝ち得てきたものであり、本当に感謝しています。
同時に本当に日本の未来を危惧していています。権利とか労働環境とか言っている場合じゃないと従業員10名に満たない小企業の経営者としては思います。
そして愚痴になってしまいますが、日本の保険診療は素晴らしいシステムですが近い将来間違いなく崩壊するでしょう。
世界で最も安価に、ある程度の質の治療が受けられるのが日本です。我々が治療して得ることのできる診療費は正直20年変わっていません。特に歯科は命に直結しないという理由と財政のひっ迫具合から割り当てられる予算が変わりません。
でも皆様が実感されているように材料費も人件費も向上しています。そうしたら利益が年々削られますし、診療費は研修医が行っても著名な医師/歯科医師が行っても同じだけしか得られません。
診療技術や知識を上げるために「費用や時間をかけて頑張り続けるのが難しい」のが残念なことに日本のシステムです。私は共産主義と同じだと思いながら日々過ごしていますし、ますだ歯科医院では「できる範囲で」良質な保険診療を提供しようと取り組んでいます。保険診療には限界があり、過度な期待は禁物です。
「痛くないうちに検診して早めに治療しよう!」そんな風に思っていませんか?歯の治療は進行止めと機能回復であり「再生」ではありません。治療するたびに歯の状態は悪くなっていきます。歯磨きも食生活も努力せずに、3か月に一度歯医者に通院してクリーニングを受けたら虫歯にも歯周病にもならないと思っていませんか?幻想です。
「病気にならないようにとにかくセルフケアを頑張って、セルフケアがきちんとできているかチェックを受けよう!」
これが定期検診の本来の目的だということを認識していただければと強く願います。
私はインプラントが専門ですが、インプラントなどせずに一生ご自身の歯で食事が出来て気兼ねなく笑うことが出来るのに勝るものはありません。
愚痴になってしまいましたが、今の若者には英語を身に着けて、海外に目を向けてほしいと切望しています。
充実した移動日を終えて、いよいよ研究会場であるルーゴに向かいます。
(続く)